競技用に改造すること

競技用に改造すること
キャスティングスポーツ競技は、より遠くに投げたり、より正確に投げることを競うスポーツです。そのためにはルールに則った範囲内で、自分が使いやすいように道具を改造することは認められています。釣りの世界でも、シビアな条件の中ではラインを細くしたり、針がかりを良くするために研いだりする、それと同じようなことです。

改造その1

そのような改造の第一歩は、ロッドビルディングでしょう。競技専用ロッドは需要が高くない現状では、完成品はほとんどありません。となると自分で作るしか無い、ということになります。ブランクから作るのは、プラモデルを組み立てる感覚に近いものがありますが、エスカレートしてくると完成品のロッドのガイドをバラしたり、ティップやバットを切り刻むことも平気でできるようになります。「切り刻む」なんてオーバーな表現、いえいえ柔らかめのロッドの感覚を調整するときなどは、1cm単位でトップガイドの位置を変えながら投げ比べて、ハギレがゴロゴロ転がる状況なんていうこともあったりするのです。
リールの改造は一番ハードルが高いでしょう。金属加工となると道具立てやノウハウが必要になります。最も簡単な改造は、スプールの交換です。競技用に作られた放出効果を高めた投げ釣り用リールの専用スプールや、製品版のスプールよりも40%以上軽量に作られているベイトリール用のスプール等は、海外の選手も日本製を使っています。

改造その2

日本で作られたハイギアモデル。銀色のリールは重量のことを無視してハイギア化したので、重量感がある。

「さすがにリール本体の改造は?」いえいえ、その壁すら超えてしまうのが、競技というもの。必要性が出てくれば、乗り越えられなものはありません。正確に投げることを競い合う際、同じ点数でスコアメイクが終わった時に、判断されるのが「時間」です。より早く投げ終えた選手が勝ち、が、現状のルールです。とすると、リールのギア比をより高くすること、を考えた結果が、こちらのリールです。

外側にギアを取り付けてシャフトを倍以上のスピードで回すことのできるリールが出来上がります。1990年代から使われ始めました。最初に始めたのはスイスの選手たちだったと記憶しています。かつての2種フライ正確度距離複合種目では正確度種目終了後に一度ラインを全て巻き取る必要があったので、ギア付きのフライリールは使用禁止になっていましたので、このような改造もすぐに禁止になるだろうと思っていたら、規制がかかる前に多くの選手が使うようになってしまい、今に至っています。この改造リールの難点は、外側に付けたギアの重さでリール全体の重量が重くなるということでした。しかしその改造方法も技術が上がり、今ではそれほどバランスの崩れも気にならなくなり普通に使えるリールになっています。これらの改造は、一部の選手が自分の改造と一緒にやる、ということで請け負ってくれています。日本でも同じように、手先の器用な選手や手に職を持っている選手の方々によって、改造リールが生まれているようです。

あえて「ど」ノーマル

バイオマスターのハンドルを交換。モデルの年次やクラスで、5:1や6:1と違いがある。購入時には要確認。

改造リールありき、のルールはおかしい、と思われるかもしれません。しかし、改造リールを使うトップクラスの選手を尻目に、常にこの種目で勝ち続けているクロアチア勢が使うのは、「ど」ノーマルのリールなので、改造リールがないと勝てないわけでもない、のが実情だったりします。

「ど」ノーマルのリールとは、実際にはどのようなリールなのか、というと、シマノのStradic 1000。日本でも昨年ごろから同じ名前のリールが出ていますが、時期的なことを考えると、バイオマスターの1000番の輸出版のリールと同じものと思われます。クロアチアの選手のマルコに聞いたら「カベラスで普通に売ってるよw」と言っていました。唯一の違いは、ダブルハンドル、のリールであることです。投げ終えた後に直ぐにラインを停めて直ぐに巻取りに入ります。その巻取りの速さは尋常ではありません。出来る限り高速で巻取り、プラグが途中まで来たところでハンドルを弾いてダブルハンドルの慣性を活かしてスピンさせるのです。すると改造リールを使うよりも短い時間でプラグを回収できてしまうのです。もちろん、ライントラブルのリスクは高まります。それを克服するのも彼らの練習プログラムのひとつなのでしょう。
クロアチアチームのメンバーの多くの選手は、小さい頃からキャスティングスポーツの練習をはじめます。3種4種の練習をしている時間が一番長いことと、小さい頃から道具に慣れ親しんでいるからこそ、できるスタイルなのかもしれません。とはいえ、ハイスピードのリールがなければ当たらない、ということはありませんし、なければ勝てない、ということでもないのです。まずは1投でも多く投げることが、優勝への近道なのです。でも、そういう道具に憧れる気持ちもわからないではありませんし、実際自分のところにもそういう道具が、あちらこちらに…。それもまたキャスティングスポーツの楽しみのひとつということで。