欧州の応酬

欧州の応酬

片手投げ距離種目がないベイト種目

JCSFが採用しているICSFルールは、全部で9種目。使うリールは3種類。であれば、それぞれの種目で正確度・片手投げ距離・両手投げ距離の3種目で合計が9種目、であればわかりやすいのですが、実はそうではありません。表題のように、ベイトリールを使う片手投げ距離種目がないのです!

ブラックバスがいないヨーロッパ

この背景には、キャスティングスポーツが「釣り」をバックグラウンドにしているから、というのが理由にあげられます。アメリカと日本でルアー釣りというと「ブラックバス」の名前が上がってくるかと思います。この魚を釣るときには、ベイトリールがよく使われています。しかし、ヨーロッパでは、ブラックバスがいないからなのか、ベイトリールが釣りに使われることが、あまり無いのです。もちろん、全く使わないわけではないのでしょうけれど、圧倒的にスピニングリールばかり、なのです。
1990年代前半に現在の9種目になる前のルールでは、総合種目は11種目で競われていました。フライ種目に正確度と距離の複合種目と、ベイトリールの片手投げ距離種目の2種目、この2種目がルール改正の際になくなってしまったのです。ベイトリールの片手投げ距離種目が無くなったことには、ヨーロッパで人気のないリールだったという理由の他にも、もう1つ理由がありました。

改造リールとそれ以外

アメリカのルールをベースにしていたベイトリールの種目ですが、アメリカの流儀が世界中で全部に通用することはありませんでした。アメリカのルールをベースにしていた当時のICFルールでは、マルチプライヤー片手投げ距離種目のメインラインの太さは自由だっただけでなく、プラグの18gの形状と重量だけがあっていれば他は全て自由だったので、多くの選手は道具の改造に勤しみます。遠くに飛ばすためには、糸を細くすればいい。となるとスプールも小さくていい。その結果、このようなリールが作られるようになったのです。


このスプールに巻けるラインの太さは、0.04mm。もちろん、そのままプラグを結んでも、投げる以前にぶら下げるだけで切れそうな(実際には切れませんでした)ラインです。投げるときにはショックリーダーを使いますが、そのショックリーダーとの結ぶときにも、ミシン糸をショックリーダーを結ぶためのショックリーダーとして挟み込むのだ、と教えてくれたのはSteve Rajeff。さくら草公園で行われたSteveに挑戦するスーパーチャレンジ大会(昭和58年2月6日)の競技終了後、自身で持ってきたタックルを使って試投してくれましたが、140m近く飛んだプラグまで巻き取るときの大変さはありませんでした。芝生のくきに絡んだラインは引っ張るときれてしまうので、手で解きつつ文字通り右往左往しながら…。

このラインの通称は「Spider Line」。文字通りくもの糸です。10年以上前に当時のACAの事務局長とメールのやり取りをしていたときに、このラインの話になり「日本製なんだが、入手できないか?」と聞かれたことがありました。日本で作っているのだから流通しているだろう、という無茶振りだったのですが、当時はまだ今日ほどInternetが普及していなかったので、検索にもなかなか引っかからず。結局最初のルートで入手できたということで無事解決したそうです。その時にACAが入手したのがこのボビンのラインです。

しかし、改造行為は悪いことばかりではありません。現在もまだ使われているブレーキシステム「遠心力ブレーキ」は、競技でより遠くに飛ばすことを目的に開発・発明されたものです。スプールを軽くするためには、軽い金属を使えばいいということで、マグネシウムが採用されたり、スプールの回転バランスを整えるための調整なども行われていたのでした。ABU2100スポーツの競技用マグネシウムスプールです。左側が初期のもの。右側が1980年代に日本からオーダーをかけて復刻されたもの。ブレーキピンの形状は変わっているものの、バランス調整の仕方は変わっていない。塗装が取れてしまった部分は、表面が腐食しかかってきているのがわかります。

ACAも取りやめた?

気になってACAのルールブックを見たところ、5/8ozの片手投げ距離種目の記述はあるものの、道具のルールとしては具体的な記述がありませんでした。また両手投げ距離種目では、リールのところに「100台以上作られた製品を用いる」ということも付け加えられていました。以前Steveもこの種目のことは気にかけていて、道具を入手できたかできなかったか、がこの種目の勝敗を決めてしまうのはいい傾向ではない、ということで、両手投げのリールをそのまま使えるような方向に持っていきたい、と話をしていたことを思い出します。

JCSFではどうするのか?

JCSFは競技種目としてはICSFルールを踏襲することを方向性として掲げています。一方で競技普及のための入り口となるゲーム的な要素も取り入れていきたいとも考えています。バスフィッシングがこれだけ普及している日本です。18g前後のルアーを遠くに飛ばす釣りであれば、シーバスフィッシングなども同じ要素をもっています。このような釣りから入ってきやすいようなルールも、今後取り入れていきたいと考えています。